青空文庫には、北大路魯山人の随筆が、184本も収載されている。 日本美術ばかりでなく料理についてもうるさい稀代の趣味人ということなので、難しいのはちょっと遠慮させていただくが、ごく短くて分かりやすそうな随筆に挑戦してみようと考え、この随筆「美味論語」を選んでみた。 そして、いざ読んでみたのだが、大したことは書いてない。 要するに、いくら料理人の腕が良くても、元々素材が悪けりゃ、つまり不味いものをうまくすることなんか出来ないよ、といっているだけだ。 別段、含蓄とか皮肉とかがある訳じゃない、極めてシンプルすぎて、読む前の気負いが馬鹿みたいだ。 それに、「美味論語」とタイトルしているのだから、論じた内容の趣旨を論語中の名言と紐づけでもするのかと楽しみにしていたのだが、どうやらそれもなさそうだ。 魯山人というのは、この程度の人物なのか、正直がっかりした。 どうも期待が大きかった分、なんだかこのままで終わらせるのは、自分的にスッキリしない。 せめて、この小論の趣旨に相当する文言を論語の中から探してみよう。 まず、この小論の書き出しは、「不味いものをうまくすることができるか」という命題から出発していた。 そして、数々の条件が提示され、あれは駄目、これも駄目みたいな否定を積み重ねて、「やっぱり、素材がわるくっちゃ駄目なんだよ」と極め付きの駄目出しをぶちあげて論を閉じている。 つまり、この小論のコンセプトは、食に関する「否定の連鎖」なのだ、そう、それに間違いない。 そういうことなら、論語にはぴったりの文言がある、これだ。 ❮食は精を厭わず、膾は細きを厭わず。 食の饐してあいせると、魚のあされて肉の敗れたるは食らわず。 色の悪しきは食らわず。 臭いの悪しきは食らわず。 じんを失えるは食らわず。 時ならざるは食らわず。 割正しからざれば食らわず。 その醤を得ざれば食らわず。 肉は多しといえども、食の気に勝たしめず。 唯酒は量なく、乱に及ばず。 沽酒と市脯は食らわず。 薑を撤てずして食らう、多くは食らわず。❯