菊
きく
初出:「ヒッチコック・マガジン 第四巻第一二号」宝石社、1962(昭和37)年11月1日分量:約12分
書き出し:昔、一人の女がいた。女は御所《ごしょ》につとめ、幼いころからその御所の奥ふかくに住み、中宮《ちゅうぐう》の御身のまわりのこまごまとした雑用をはたすのが役目だった。中宮と主上《しゅじょう》との御仲はたいへん円満で、毎日は時の刻みのように着実に、平和に過ぎ、そのあいだ女もまた中宮に表裏なくまめまめしく仕えたので、中宮は女に一部屋を下さるまでになった。いつのまにか、女の年齢は二十を大幅に越えてしまってい...