『死者の書』
『ししゃのしょ』
初出:「西日本新聞」1955(昭和30)年8月分量:約3分
書き出し:遠い大昔、まだ死者が蘇ったり、化身の人が現われたり、目に見えぬ鬼神《モノ》と人間との間に誓が交されたりした時代。そういう時代は、もう返って来ないであろう。しかしそういう時代への人間のあこがれは、いつの世になっても、全く消え果てるものではなかろう。そういう意味で折口信夫氏の『死者の書』は、いつまでも生命があるもののように思われる。藤原南家の郎女《いらつめ》中将姫の伝説を小説化したもの、というよりも長...