乳と蜜の流れる地
ちちとみつのながれるち
初出:「あまカラ 新年号 第一三七号」甘辛社、1963(昭和38)年1月5日分量:約9分
書き出し:私は、晴れた日の青い海を見ると、なんとなく食慾をそそられるような思いがする。これは今に始まったことではないが、どうしてそうなんだろうと考えてみると、それはサカナ屋の店先などを通るときに、鯖《さば》や鮪《まぐろ》や鰯《いわし》などが、水をぶっかけられて青い背中をいきいきと光らせているのを見て、あれはいかにもうまそうだと自分の眼を光らせるその瞬間、その青い色が、どうやら深海の色で染まってきたのではない...