久保田万太郎
雙喜 大風呂横丁と 源水横丁の あたりに あの 喧しい 飴屋の ちゃんぎりの 音が 聞こえてくる。包丁で 伸ばし あげた 材料を ことさらに リズムよく 聞こえよがしに 手際よく 切り上げる。誓願寺の 寺領からは 寿司屋の 屋台 おでん屋の 屋台 天麩羅屋の 屋台 支那蕎麦屋 一品料理の 屋台が 夕暮の 空を 飛翔する 蝙蝠と 前後して 湧き出てくる。懐かしい 日の 沈む 頃の 風景であったと 感じた。