「西洋美術館めぐり」の感想
西洋美術館めぐり
せいようびじゅつかんめぐり

03 序

03 じょ

安井曽太郎

分量:約1
書き出し:若い人が歐洲の新しい美術に影響される事は、それは當然ではあるが、然しそれと同時に西洋古典美術の深き研究がなければならない。古典を充分知らなければ新しい繪や彫刻はほんとに判らないのである。今の若い畫人は外國の新しい繪は比較的見る機會はあるが古典畫に接することは稀である。その爲にそれ等の畫家はしぜん新しい畫の外面的な模倣に陷り易い。その事は我國美術の前途の爲全く心配な事である。今度西歐美術に造詣深い兒...
更新日: 2022/03/31
cdd6f53e9284さんの感想

安井曽太郎画伯の絵が大好きで、機会さえあれば、努めて見逃さぬよう気をつけている。 残念ながら画集を所有していないので、作品の鑑賞はもっぱらインターネットの画像検索に頼って安井画伯の作品を楽しんでいるのだが、たまたま何かの切っ掛けで、青空文庫に安井曽太郎画伯の文章が収録されているのを知り、小説家の作品ばかりでなく、画家の文章まで収録しているのかと驚くとともに喜んで読んだ。 まあ、文章といっても、この「西洋美術館めぐり」というのは、ほんの2ページのごく短い小文一点だけだが、それでも安井曽太郎ファンにとっては貴重な機会だ、じっくりと味わって読まねばならない。 書かれた内容からすると、なにか「西洋美術館めぐり」とかいう美術本の前書きのようなものらしいが、受ける印象としては、かなり凝った色刷り満載の豪華美術本らしい。それなら一度見てみたい気もする。 この文章が書かれた日付は、昭和10年1月とある。 後日、美術に詳しい友人に、この安井曽太郎氏の文章を教えて、当時こういう美術本が出版されたのだろうかと訊いてみた。 「じゃあ、調べておくよ」と請け合ってくれたので、その場は別れた。 それから数ヶ月たって、再び会って話しているうちに、彼が、そのときのことをすっかり忘れているらしいことが話の調子から察せられたので、あえて自分も言い出さずにいた。 しかも、彼の話をよく聞くと、彼が興味のあるのは美術ではなく美術館、それも美術館の特色あるグッズを集めるのが趣味とかで、全国の美術館をめぐり歩いているというのだった。 へえ~マジか、世の中にはこういう趣味の奴も本当にいるんだな、実に迂闊だったと呆れつつ感心した、 もちろん、言葉にも表情にもださなかったが、もしかしたら、彼、安井曽太郎の名前すら知らなかったかもしれないと、逆に彼には悪いことをしてしまったような気にもなったのだが、そんなことは一向に気にも掛けず、彼は最近の体験談を話し始めた。 二週間ほど前の新聞の日曜版に、近郊の美術館で、フランスの印象派展開催の広告が掲載されていた。その日からの開催らしい。 そこには、画家の名前と展示される作品が列記されていて、さらに、その下に今回展覧会で発売する特製グッズの数々があげられていた。 そこで、彼の目は釘付けになった、なんとそこには「Tバック」と書いてあるではないか!  瞬間的に妄想が一挙に広がり、なんだか胸がドキドキしてきた、Tバックってあれだよな、Tバックってあれだよなと何回も独りごちながら、そばにいる母親にも確認できず 悩み続けた。 きっと、セザンヌとかゴッホの絵柄が印刷されているのだろうが、印刷するとしても、スペース的には、どうなんだ? ん? かなり狭小なスペースしかないではないか。はは~ん、あそこだな。 こうしてはいられないと、彼はさっそくその展覧会に駆けつけた、躊躇する必要がどこにある、 電車を乗り継ぎ展覧会場に入った彼は、絵画鑑賞もそこそこにグッズ売り場に走った。 そして、何度も何度も探して歩いたのだが、残念ながら、陳列されている商品のなかに目指すグッズを見つけることは、ついにできなかった。 よっぽど店員さんに確かめようかとおもったが、とびきりきゃぴきゃぴの美人だったので、それも憚られた。 もういい、帰ることにしようと決めて、ふと出口の壁にこの展覧会のポスターが貼ってあるのに気がついた、今朝新聞に載ってた写真の大型バージョンだ。 そこには、こう書いてあった。 「Tシャツ、バッグ、文具、絵ハガキ、スイーツ······」 底知れぬ虚脱感が、彼に襲いかかってきたのであった。 よく読め、馬鹿! 彼は、自身に向かって、独りごちねばならないのであった。