はやい秋
はやいあき
初出:「ヒッチコック・マガジン 第四巻第一〇号」宝石社、1962(昭和37)年9月1日分量:約16分
書き出し:東京に帰ってきた彼は、見違えるように逞《たくま》しくなって、ひどく日焼けしていた。ほとんど毎日海で泳ぎ、鼻のあたまの皮も、三、四へんは剥《む》けたようだという。だが、ふしぎにその日、彼には元気がなかった。こっちがいくらエンジンをかけようと努力しても、すぐ彼の目はうつろになり、いつのまにか、窓越しにまだ早すぎる秋の空をぽかんとみつめている。なんとか気分を変えねばならなかった。私は煙草《たばこ》に火を...