私の処女出版
わたしのしょじょしゅっぱん
初出:「東京新聞 夕刊」1954(昭和29)年7月7日分量:約1分
書き出し:私の処女出版、と言つてもそれはついこなひだのことである。丁度一年まへに、私は初めて、「落穂拾ひ」といふ貧しい小説集を出した。そして私は分不相応な好意を受けた。けれども、好意といふものは、本来さういふものなのであらう。道ばたの雑草に露が降りるやうな。私もまた、これまでに書いたものは、みんな不満である。けれども、愛着といふことは、これはまた別であらう。私は、この本の中にある作品のどれにも、愛着を持つて...