「軍国歌謡集」の感想
軍国歌謡集
ぐんこくかようしゅう

山川方夫

分量:約102
書き出し:私は人間が進歩したり、性格が一変したり、というようなことはあまり信じてはいない。たしかに人間は変《かわ》るものだが、それはべつに進歩を意味しないし、他人になるということでもない。彼の中の感情の回路、納得の形式というものは、いつのまにか一定してしまっていて、それは取り替えがきくものではない。大学生だったころ、友人の下宿にころげこんでいた季節がある。ときどき、私はその下宿での自分の経験が、皮膚の奥から...
更新日: 2023/05/12
ハルチロさんの感想

表題からは想像出来なかった話の展開で、少々面食らった。しかしながら、読み進めて行くに連れて、作品に没頭できた。 昭和30年頃の朝鮮特需が終わりを告げようとしている時代が、今作品の背景に色濃く出ているように思う。太平洋戦争を経て、復興の最中に勃発した朝鮮戦争を身近に感じた作者の脳裏にあったのが、“軍国”であり、戦後復興に光を指したのが“歌謡集”であるのか。作品と題名を深読みしたくなるところである。 個人的には、今作品の主人公の心情に共感できる部分が多いのは、主人公の年齢のときに、少なからず、同じ様な感情を持っていたからかもしれない。