西南北東
せいなんほくとう
初出:「詩風土 第十九輯 十二月號」臼井書房、1947(昭和22)年12月1日分量:約13分
書き出し:時計のない朝私は焼跡から埋めておいた小さな火鉢を掘出したが、八幡村までは持って帰れないので姉の家にあずけておいた。冬を予告するような木枯が二三日つづいた揚句、とうとう八幡村にも冬がやって来た。洗濯ものを川に持って行って洗うと指が捩げそうに冷たい。火鉢のない二階でひとり蹲っているうち、私の掌には少年のように霜焼が出来てしまった。年が明けて正月を迎えたが、正月からして飢えた気持は救えなかった。だが、戦...