竜と虎
りゅうととら
初出:「キング増刊号」大日本雄辯會講談社、1940(昭和15)年4月分量:約38分
書き出し:一性が合わぬというのはふしぎなものである。西郡至《にしごおりいたる》は学問もよくでき、武芸も岡崎《おかざき》藩中で指を折られる一人だった、いえがらは三百石の書院番で、人品も眼《め》に立つほうだし人づきあいも決して悪くない、寧《むし》ろどちらかと云《い》えば寡黙《かもく》で、謙虚で、愛想のよい方である。……灰島市郎兵衛《はいじまいちろべえ》にしても同様、五百石の作事《さくじ》奉行で、年齢はもう五十一...