荷風は、ある時ふと、維新の頃に攘夷派の侍に斬り殺されて葬られた米国通訳ヒュースケンの墓に詣でようと思い立つ。どういう理由で、そのように思い立ったのか、何度も読み返したが、明確には書かれていないような気がする。かろうじて、遠い異国の地でその落命の悲報を聞いてさぞや悲しむ母親がいただろうと思いをいたす部分が、相当するかもしれないと考えた。
最終行の 光林寺の ヒュースケンの墓畔に香る 一樹の「海」とは いったい 何を 意味するのだろうか?ママか 校正の 見落としか たれにもわからない。
太平洋戦争の直前に刺客によって命を奪われたオランダ人であり米国人である通訳官のヒュースケンを偲んで書かれた作品。オランダに一人残る母を残して亡くなった男の墓と側に立っていた一本の梅の木に思いを馳せている。戦争直前に米国人に思いを馳せるとは作者は勇気ある人であったようだ。