老人
ろうじん
初出:「オール読物 第五巻第七号」文藝春秋新社、1950(昭和25)年7月1日分量:約14分
書き出し:臼木は長年もと日本橋区内に在った或《ある》病院の会計をしていた時分から、株式相場にも手を出し、早くから相応に財産をつくっていたが、支那事変の始ったころ、年も六十近くなったので、葛飾区|立石町《たていしまち》に引込み、老妻に釣道具と雑貨とを売らせ、自分は裏畠に花や野菜を栽培したり、近くの中川や江戸川へ釣に出たりして老後の日を楽しく送っている。忰《せがれ》が一人、娘が一人あったが、忰の方は出征すると間...