私
わたくし
初出:「改造 第三巻第三号」1921(大正10)年3月1日分量:約30分
書き出し:もう何年か前、私が一高の寄宿寮に居た当時の話。或る晩のことである。その時分はいつも同室生が寝室に額を鳩《あつ》めては、夜おそくまで蝋勉と称して蝋燭をつけて勉強する(その実駄弁を弄する)のが習慣になつて居たのだが、その晩も電燈が消えてしまつてから長い間、三四人が蝋燭の灯影にうづくまりつゝおしやべりをつゞけて居たのであつた。その時、どうして話題が其処へ落ち込んだのかは明瞭でないが、何でも我れ/\は其の...