「焼跡」の感想
焼跡
やけあと
初出:「東京新聞」1948(昭和23)年4月14日、15日

斎藤茂吉

分量:約6
書き出し:洋傘昭和二十年の五月に燒けた青山の家には、澤山の書物などがあつて、いまだに目のまへにちらついてかなはない。書棚も、それから、萬葉關係の古書なんかも、燒ける前その儘の姿であらはれて來る。殘念などといつたところで、もはや甲斐ないはなしである。さういふ灰燼に歸した物の中に、一本の洋傘があつた。これは、大正十年の十月、自分が留學の途にのぼるとき、丸善で買つたものであつた。その洋傘が、大正十四年の一月、自分...
更新日: 2022/05/25
cdd6f53e9284さんの感想

昭和20年の大空襲によって多くの大切な書籍をはじめ、思い出の品々を消失してしまったと嘆く斎藤茂吉の回想。 その中には、若い頃、洋行のために買い求めた洋傘もあった。 彼の地の何処かに置き忘れ失われたかもしれなかったこの洋傘がたどった運命と、結局は自分の元に返ってきた奇妙な縁が記されている。 傘ばかりでなく、この随筆には「物」に寄せる独特の愛着の感情を、茂吉自身が深い思いで楽しんでいる深い味わいがあるのは確かだが、そのすべての言葉が、あの空襲によって、ことごとく灰塵に帰してしまった喪失感の中で語られていることを忘れてはなるまい。