片男波
かたおなみ
初出:「文藝倶樂部 第二巻第九編臨時増刊 海嘯義捐小説」博文館、1896(明治29)年7月25日分量:約9分
書き出し:降《ふり》続きたる卯の花くだしようようはれて、かき曇りたる天もところどころ雲の切間を、朧なる五日の月は西へ西へと急ぐなり。千載|茲許《ここもと》に寄せては返す女浪《めなみ》男浪《おなみ》は、例の如く渚を這《はい》上る浪頭の彼方に、唯|形《かた》ばかりなる一軒|立《だち》の苫屋《とまや》あり。暮方より同じ漁師仲間の誰彼《だれかれ》寄り集いて、端午の祝酒に酔うて唄う者、踊る者、跂《はね》る者、根太も踏...