私の父が狸と格闘をした話
わたしのちちがたぬきとかくとうをしたはなし
初出:「婦人公論 第六年第九号」1921(大正10)年8月1日分量:約12分
書き出し:これは本当の話なのだが、あまり奇体な話なので、人が本当にしてくれるか知ら。何にせよ、本当の話なのだ。これが本当の話だということは私の故郷(紀州新宮)の人たちがよく知っている。それは、私が十《とお》ぐらいのころのことだから、今から二十年も昔のことである。——その頃では未だ、今では人が見向きもしない自転車というものが、今の自動車ぐらいに珍重されていた。殊に大都会からかけ離れている私の故郷の地方などでは...