「文字禍」の感想
文字禍
もじか
初出:「文学界」(「古譚」の題で)1942(昭和17)年2月

中島敦

分量:約20
書き出し:文字の霊《れい》などというものが、一体、あるものか、どうか。アッシリヤ人は無数の精霊を知っている。夜、闇《やみ》の中を跳梁《ちょうりょう》するリル、その雌《めす》のリリツ、疫病《えきびょう》をふり撒《ま》くナムタル、死者の霊エティンム、誘拐者《ゆうかいしゃ》ラバス等《など》、数知れぬ悪霊《あくりょう》共がアッシリヤの空に充《み》ち満ちている。しかし、文字の精霊については、まだ誰《だれ》も聞いたこと...
更新日: 2022/08/24
あるるるるさんの感想

円城塔の『文字渦』を読んだ後、この作品の存在を知りました。併せて、青空文庫で読めることも。 「こっちの《モジカ》もあっちの《モジカ》と同じぐらいヤヤコシイ文体なんだろうか?《渦》と《禍》と《カ》の文字は違えど どっちも同じく《モジカ》だし…」 と、円城さんの『文字渦』世界を存分に引きずっていたため二の足を踏みそうになりましたが読んで良かった、中島作品『文字禍』はヤヤコシさ微塵も無くすらすらと愉しめました。 「どうして《あ》っていう字は《あ》って読むんだろう?なんで《あ》は《い》って読んだり《う》って読んだりしないのか?横棒と縦棒とグル〜ッでどうして《あ》?《お》でも《を》でもなく なんで《あ》?」…小学校入学当初の国語の授業中にこういうことばかり考えていた私は作中の博士に親しみを覚えました。そして、物語終盤、博士と同じようには《分析》を極めないタイプの私でラッキーだったと思いましたね。 なお、円城さんの『文字渦』も大変おもしろかったんですよ、ヤヤコシイ文体も勿論含めて。いや、《も》というよりも〘ヤヤコシイところ《が》〙まさに味という感じで。 で、なんと青空文庫でも円城塔作品が読める!その2作品も面白かったですよ〜! 青空でも読めるようにしてくれている円城さんに心より感謝です。

更新日: 2020/11/07
19双之川喜41さんの感想

 「歴史とはな、この粘土板(文字)のことじゃ。」 読書過剰に気づいた人は 大したもの。 文字を知ってから 女を抱いても一向楽しゅうなくなったと 70越した老人の言。文字のせいかな。 中島の早逝が 惜しまれると思った。

更新日: 2020/04/04
86907b788e63さんの感想

文字を見続けることによるゲシュタルト崩壊、それは文字の精霊のせいか…不思議な小説だった。

更新日: 2020/03/16
d05e7d0b742bさんの感想

文字がひとつひとつの線の交錯、集まりでしかない ふだん何気なく目にしている文字が、じっと見ていると、確かにただの線と線の交わりにしか見えなくなることがある 何度も目にしてきた文字が、急に文字に見えなくなるのである こんな字だったろうか? そんな感覚に襲われたことが何度かあることを思い出した これこそが、文字の精霊のなせる業なのか?

更新日: 2019/10/16
b9ef941530ccさんの感想

中島敦の文字禍は、古代 メソポタミアのアッシリアの楔形文字の神秘的な文字の霊にまつわる話。文字のせいで、人々はだらくしたと。文字の博士も地震でおびただしい文字の粘土版によって、死んだ。という話。

更新日: 2019/02/19
ac69e4437229さんの感想

私は目が悪くなってきているので、読み終わった後からも、思い返して楽しんだ。文字の精霊。パソコンの図形にも精霊がいるのかも。

更新日: 2018/01/12
芦屋のまーちゃんさんの感想

文字か! 「禍」ってなんだ? 明鏡国語辞典によると わざわい。災難。 とある。 人間と他の動物との違いの一つは 文字の使用だ。 カラス語、イヌ語、ネコ語、 サル語、イルカ語がもしかすると あるかも知れぬが、鳴き声であり 文字ではない。 人間のみが発明できた文字が 災難の源との研究結果 貧富の差と文盲率の高低差が関連するなら裕福な者ほど災いが降りかかるかも知れない

更新日: 2016/02/10
29c4eff05875さんの感想

文字が音や意味を持っているのは背後に霊的な存在があるからなのではないか、と思い至った老博士の妄想奇譚。SF短編のような印象を受けた。人間の内面を描くというよりは物語的な面白さを全面に出しているように感じる。このような短編をまとめて一冊の本にしたら面白いだろうな、と思った。

更新日: 2015/06/23
80a6b5c171cbさんの感想

文字は線や点の変化、または集合。当たり前だが、気になると落ち着かない。 馬に言及するあたりで、なるほどアッシリアの文字(楔形)は表音文字なんだとあらためて気付く。エジプト文字や漢字では、逆になるのか。 歴史に対する博士の答えはまさにそのとおりと首肯。だから歴史は叙事詩や文学になっても、本当の意味で学問にはなり得ない。 理屈っぽいのも、ここまでくれば天才。すごく面白い。

更新日: 2015/04/01
葡萄さんの感想

2015年4月1日読了。読書家にはちょっと耳の痛いお話。読みながら自分に当てはまる部分で苦笑する人がきっといるはず。風刺が効いていて面白いです。

更新日: 2015/03/25
4a48effa11f7さんの感想

アッシリアを舞台とした、知的サスペンス? 文字に霊のあることの証明のためエリバ博士は様々な研究を試みるが、行き過ぎた研究はやがて博士の身を… 歴史とは、文字に記されたもの、との一文がなんとも深い名作!