開化の良人
かいかのおっと
初出:「中外」1919(大正8)年2月分量:約48分
書き出し:いつぞや上野《うえの》の博物館で、明治初期の文明に関する展覧会が開かれていた時の事である。ある曇った日の午後、私《わたくし》はその展覧会の各室を一々|叮嚀《ていねい》に見て歩いて、ようやく当時の版画《はんが》が陳列されている、最後の一室へはいった時、そこの硝子戸棚《ガラスとだな》の前へ立って、古ぼけた何枚かの銅版画を眺めている一人の紳士《しんし》が眼にはいった。紳士は背のすらっとした、どこか花車《...