幻影の盾
まぼろしのたて
初出:「ホトトギス」1905(明治38)年4月分量:約66分
書き出し:一心不乱と云う事を、目に見えぬ怪力をかり、縹緲《ひょうびょう》たる背景の前に写し出そうと考えて、この趣向を得た。これを日本の物語に書き下《おろ》さなかったのはこの趣向とわが国の風俗が調和すまいと思うたからである。浅学にて古代騎士の状況に通ぜず、従って叙事妥当を欠き、描景真相を失する所が多かろう、読者の誨《おしえ》を待つ。遠き世の物語である。バロンと名乗るものの城を構え濠《ほり》を環《めぐ》らして、...