物語に特別の趣向は無いけれども、漱石の文章はどうしてこうも機微が鮮やかなのだろう。何時もながら、唸るしかない。
人の女房と枯木の枝は 登り詰めたら先がないというのに 所帯をもってしまうから 鬱々悶々が 通奏低音となり 門を 出入りしても 気がはれないのかもしれない。 地の文も 魅力的だと 感じた。
感動
2018年10月12日で中断していた青空文庫の通勤車内読書を一年ぶりに再開した。没落した家の役所勤めの宗助と妻の御米の夫婦の話。あまり面白くない。
「門」は漱石の前期三部作の三作目。一作目の「三四郎」は気になる女性たちが描かれ、二作目の「それから」では友人の妻に横恋慕し、「門」では友人の妻を奪ってしまう。それぞれ主人公や背景は異なるものの、テーマは分かりやすい。宗助は友人の長井を裏切り、その妻 御米を奪って結ばれるが、それを負い目に苦しみながら、不幸なことばかりでなかなか二人には慎ましやかな幸せしか訪れない。事を起こすにも優柔不断で何でも先送りにする宗助には苛々するが、そのペースに徐々に慣れてくる自分に笑ってしまう。世間から顔を背けるように生きていく二人には、負けずに生きて幸せになってほしいと願うばかりだった。
過去の出来事が今を脅かし、幸せに辿り着けずにいる。 文章が少し読みづらかった。
『吾輩は猫である』を読んだ直後にこれを読んだけど、作風の違いに驚いた。 豊かな暗喩で、平和な情景にほの暗く落ちている登場人物の闇が始終感じられて読み心地もよいですね