人の腸を生かす実験を続けるうちに腸に愛着を抱き、その腸もまた医学生を愛するに至った話。 日本SFの草分けと聞いていたのでかねてから読みたかった作家のひとり。科学技術が発展した現代では“科学”という未知への漠然とした恐怖と期待をかきたてられることはそうそう無い(昨今の流行を見るとVRだけは別かもしれない)。少し取っつきにくいジャンルだが、当時は今で言うライトノベルや漫画の立ち位置だったのだろうか。
腸と医学生のラブコメ……と言えなくもないような気が……しなくもない。
おもしろすぎる。生きている腸が感情を得るあたりまでは凡庸だったのに、博士が腸の持ち主に言葉を濁したあたりから一気に読ませる。女の腸で、しかも腸だけになっても女は女、それも処女だからこそ(きっと恋も愛も知らない、そして知らずに死んでいった自分が不憫だったから)、世話を焼いてくれる吹矢に恋をしたのだろう。その恋、愛しさの衝動で吹矢を殺してしまうなんて! その後の腸は、やはり死んでしまったのだろうか。なんてことだ。論文うんぬんよりも、腸のその後が気になってしかたない。
予想外ではあるが秀逸なオチが面白い。腸に可愛らしさを感じる小説というのも、これくらいだろう。
読みやすいながらも、内容は濃厚だった。 短い中に次項への期待が押し込められていた。 チコの可愛さが秀逸。