「東京人の堕落時代」の感想
東京人の堕落時代
とうきょうじんのだらくじだい
初出:「九州日報」1925(大正14)年1~5月

夢野久作

分量:約316
書き出し:はしがきこの稿は昨年末まで書き続けた「街頭より見たる新東京の裏面」の別稿である。記者は特にこの稿を作るためには、単に街頭観にのみ依らず、この方面に責任を持っている医師、教育家、司法官、興行者、その他多数の人々に御迷惑をかけて記事の正確を期した。そのような人々の意見とても、記者が実地に調査し且つ共鳴し得たところだけを記者の意見として責任を負うて書いたのであるから、一々氏名を挙げる事は遠慮した。本人の...
更新日: 2018/10/06
ハルチロさんの感想

本作品は、南関東大地震(関東大震災)後に噴出した人間の本質的暗部を取材し、綴ったものである。未曾有の災害により衣食住を不自由し、人たるに値する文化的生活に窮すると、生存本能のままに行動することを記している。まさに「衣食足りて礼節を知る」ということを現実視していると言える。本作品で紹介されている現象は、人間の本質・本能が遺伝子レベルで変わらない限り、大規模惨事を経た場合には起こりうると思う。本作品は、その時に際して、自身を省みるべき警鐘とも捉えられる。 また、本作品は、モダニズムや民主化が脚光を浴び、“陽”の部分が注目される大正時代を、大震災後の“陰”の部分から探求し、日本人の精神の凋落を暗示しているところが面白いです。