本作品は、南関東大地震(関東大震災)後に噴出した人間の本質的暗部を取材し、綴ったものである。未曾有の災害により衣食住を不自由し、人たるに値する文化的生活に窮すると、生存本能のままに行動することを記している。まさに「衣食足りて礼節を知る」ということを現実視していると言える。本作品で紹介されている現象は、人間の本質・本能が遺伝子レベルで変わらない限り、大規模惨事を経た場合には起こりうると思う。本作品は、その時に際して、自身を省みるべき警鐘とも捉えられる。 また、本作品は、モダニズムや民主化が脚光を浴び、“陽”の部分が注目される大正時代を、大震災後の“陰”の部分から探求し、日本人の精神の凋落を暗示しているところが面白いです。