半七捕物帳
はんしちとりものちょう
62 歩兵の髪切り
62 ほへいのかみきり分量:約55分
書き出し:一前回には極月《ごくげつ》十三日の訪問記をかいたが、十二月十四日についても、一つの思い出がある。江戸以来、歳《とし》の市《いち》の始まりは深川八幡で、それが十四、十五の両日であることは、わたしも子どもの時から知っていたが、一度もその実況を観たことが無いので、天気のいいのを幸いに、俄かに思い立って深川へ足を向けた。今と違って、明治時代の富岡門前町の往来はあまり広くない。その両側に露店が列《なら》んで...