半七捕物帳
はんしちとりものちょう
61 吉良の脇指
61 きらのわきざし分量:約59分
書き出し:一極月《ごくげつ》の十三日——極月などという言葉はこのごろ流行らないが、この話は極月十三日と大時代《おおじだい》に云った方が何だか釣り合いがいいようである。その十三日の午後四時頃に、赤坂の半七老人宅を訪問すると、わたしよりもひと足先に立って、蕎麦《そば》屋の出前持ちがもりそばの膳をかついで行く。それが老人宅の裏口へはいったので、悪いところへ来たと私はすこし躊躇した。今の私ならば、そこらをひと廻りし...