しおをまく
初出:「旭川新聞」1927(昭和2)年2月8日~9日、11日
書き出し
(一)彼は木製玩具の様に、何事も考へずに帰途に着いた。地面は光つてゐて、馬糞が転げて凍みついてゐた。いくつか街角をまがり、広い道路に出たり、狭い道路に出たりしてゐるうちに、彼の下宿豊明館の黒い低い塀が見えた。彼は不意にぎくりと咽喉を割かれたやうに感じた。——ちえつ、俺の部屋の置物の位置が、少しでも動かされてゐたら承知が出来ないぞ。彼は山犬のやうな感情がこみあげてきて、部屋の方にむかつてワン/\と吠…