さけぬさんざ
初出:「講談雑誌」博文館、1941(昭和16)年12月号
書き出し
一「おい、むこうから来るのは三左だろう」「そうだ三左だ」「天気を訊いてみるから見ていろ」天正十七年十二月のある日、駿河国府中の城下街で、小具足をつけた三人の若者がひそひそささやいていた。そこへ大手筋の方から、ひとりの大きな男がやって来た。眉のふとい、口の大きな、おそろしく顎骨の張ったいかつい顔である、眼だけは不釣り合いに小さく、おまけに処女のような柔和なひかりを帯びている。肩は岩をたたんだようだし…