がき
初出:「新小説」1919(大正8)年3月号
書き出し
彼は毎日電車に乗らぬ事はない。従つて、電車内の出来事に依つて、神経をいら/\させられたり、些細な事から、可なり大きい不快を買つたりする事は毎度の事だつた。殊に、切符の切り方の僅かな間違などから起る車掌との不快な交渉は、勝つても負けても嫌であつた。車掌が乗客から、威丈高に云ひ込められて、不快な感情を職業柄ぢつと抑制して居る所などを見ると、彼は心から、同情せずに居られなかつたが、さて、一旦自分と車掌と…