まぞう
新版大岡政談
しんぱんおおおかせいだん
書き出し
首一「卑怯!卑怯ッ!卑怯者ッ!」大声がした。千代田の殿中である。新御番詰所と言って、書役の控えている大広間だ。荒磯の描いてある衝立の前で、いまこう、肩肘を張って叫び揚げた武士がある。紋服に、下り藤の紋の付いた麻裃を着て、さッと血の気の引いた顔にくぼんだ眼を据え、口唇を蒼くしている戸部近江之介である。西丸御書院番頭脇坂山城守付きの組与頭を勤めている。それが、激怒にふるえる手で、袴の膝を掴んで、ぐっと…