青空文庫

「巷説享保図絵」の感想

巷説享保図絵

こうせつきょうほうずえ

不忘674

書き出し

金剛寺坂一「お高どの、茶が一服所望じゃ」快活な声である。てきぱきした口調だ。が、若松屋惣七は、すこし眼が見えない。人の顔ぐらいはわかるが、こまかいものとくると、まるで盲目なのだ。その、見えない眼をみはって、彼はこう次の間のほうへ、歯切れのいい言葉と、懐剣のようにほそ長い、鋭い顔とを振り向けた。冬には珍しい日である。梅がほころびそうな陽気だ。この、小石川金剛寺坂のあたりは、上水にそって樹が多い。枝の

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