りょうや
書き出し
良夜とは今宵ならむ。今宵は陰暦七月十五夜なり。月清く、風涼し。夜業の筆を擱き、枝折戸開けて、十五六歩邸内を行けば、栗の大木真黒に茂る辺に出でぬ。其蔭に潜める井戸あり。涼気水の如く闇中に浮動す。虫声※々。時々白銀の雫のポタリと墜つるは、誰が水を汲みて去りしにや。更に行きて畑の中に佇む。月は今彼方の大竹薮を離れて、清光溶々として上天下地を浸し、身は水中に立つの思あり。星の光何ぞ薄き。氷…