せいしゅんのてんけいびょうしゃたち
初出:「定本 北條民雄全集 上巻」東京創元社、1980(昭和55)年10月20日
書き出し
霧の夜一黒ぐろとうちつづいた雑木林の間から流れ出る夜霧が、月光を浴びて乳色に白みながら見るまに濃度を加へて視野遠く広がつた農園の上を音もなく這ひ寄つて来る。梨畑が朦朧と煙つた白色の中に薄れてしまひ、つらなつた葡萄棚の輪廓が徐々に融かされてゆくと、はるか向うの薄暗く木立の群がつたあたりにちらちらと見えがくれする病舎や病棟の燈もぼんやりと光芒がただれて、眼のさき六七間の眼界を残したまま地上はただ乳白の…