さるすべり
初出:「太陽 第十八巻第十四号」1912(大正元)年10月1日
書き出し
一山の半腹を縫つた細い路を私は歩いて居た。日は照つて居た。下には、石材を三里先の山の中から運んで来るトロコのレールが長く続いてゐて、其向ふには、松の綺麗に生えた山が重り合つてゐた。時々石を載せたトロコが、下りになつた路を凄じい音を立てゝ通つて行つた。……人足が両手を挙げたりなどした。私は一緒に歩いてゐる丈の低い友に話し懸けた。『何うだね?君にはさういふ経験はないかね。』『ないね。』かう言つて、友は…