ほたかだけ
初出:「上高地」筑摩電氣鐵道、1928(昭和3)年7月30日
書き出し
山岳の秀美や荘厳を受取って吾が心霊の怡悦と満足とを覚える場合はおのずから二つある。一つは自分が歩きながらに絶えず変化して吾が眼前に展開し行く奇岩や峭壁や、高い嶺の雲や近い渓の水や、風に揺ぐ玉樹の翠や、野に拡がる※草の香や、姿を見ぬ仙禽の声や、然様いう種々のものの中を、吾が身が経巡り、吾が魂が滾転し行いて、そして自分というものを以て幽秘神異の世界を縫って行く場合である。恰もそれは測り知る可からざる霊…