いちやのうれい
初出:「文藝倶樂部 第二巻第九編臨時増刊 海嘯義捐小説」博文館、1896(明治29)年7月25日
書き出し
夜は早十時を過ぎたり。されど浮立たざる心には、臥床を伸べんことさえ、いとものうし。まして我は寝ねてだに、うれしき夢見るべき目あてもあらぬ墓なき身なれば、むしろ眠らずして、この儘一夜を闇黒の中に過すべきか、むしろこの一夜の永久なる闇黒界にならんことを、慈悲ある神に祈るべきか。かく悲しく思いつづけつつ、われはなお茫然としておりたれど、一点の光だにわれを慰むるものもあらぬに、詮方なくてやがていねたり。枕…