青空文庫

「煩悩秘文書」の感想

煩悩秘文書

ぼんのうひぶんしょ

不忘226
下町風土孤絶怪奇静謐

書き出し

深山の巻——女髪兼安——猿の湯岩間に、黄にむらさきに石楠花が咲いて、夕やみが忍び寄っていた。ちょうど石で畳んだように、満々と湯をたたえた温泉の池である。屹立する巌のあいだに湧く天然の野天風呂——両側に迫る山峡を映して、緑の絵の具を溶かしたような湯の色だった。三国ヶ嶽を背にした阿弥陀沢の自然湯——。白い湯気が樹の幹に纏わる。澄んだ湯壺の隅に、山の端の夕月が影を落していた。「なんという静かさだろう!ま

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