青空文庫

「指と指環」の感想

指と指環

ゆびとゆびわ

下宿生活奇人描写自己認識虚構と真実叙情的孤絶鬱屈

書き出し

銀座裏のカッフェ・クジャクの内部はまだ客脚が少なく、閑散を極めていた。彼は、焦茶色の外套の襟で頤を隠して、鳶色のソフトを眼深に引き下げていた。そして、室の中を一渡り見渡してから、彼は隅のテーブルへ行って身体を投げ出した。「いらっしゃいまし。何になさいますか?」すぐと女給が寄って来て言った。「うむ。何にしようかな?……」彼は言いながら女給の手の指を視詰めた。蒼々しく痩せた細い魅力の無い指だった。「ま

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