青空文庫

「宝石の序曲」の感想

宝石の序曲

ほうせきのじょきょく

松本23
喪失と記憶孤絶職業と倫理叙情的憂鬱

書き出し

1狭い、勾配の急な裏梯子を上り切ったところの細長い板の間は、突き当たりに厚いカーテンがかかっていて、古椅子や古テーブルなどを積み重ね、片側をわずかに人が通れるだけ開けてある。そこは階下に通ずる非常口で、めったに使うことはなかった。梯子段に近い明かり取り窓の下に、黒天鵞絨の洋服を着た盲目の少女が夕陽の中の鉄棒の影のように立っている。長い睫毛の下に寂しく閉じている目を心持ち上へ上げて、彼女はじっと耳を

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