ちち
初出:「時事新報」1921(大正10)年1月5日
書き出し
雨が降りさうである。庭の桜の花が少し凋れて見えた。父は夕飯を済ませると両手を頭の下へ敷いて、仰向に長くなつて空を見てゐた。その傍で十九になる子と母とがまだ御飯を食べてゐる。「踊を見に行かうか三人で。」と出しぬけに父は云つた。「踊つて何処にありますの。」と母は訊き返した。「都踊さ、入場券を貰ふて来てあるのやが、今夜で終ひやつたな。」母は黙つてゐた。「これから行かうか、お前等見たことがなからうが。」「…
僕の帽子のお話
ゆく雲
行人