青空文庫

「彼女こゝに眠る」の感想

彼女こゝに眠る

かのじょここにねむる

若杉鳥子20
孤絶家族不和歴史的背景憂鬱

書き出し

その夜の月は、紺碧の空の幕からくり拔いたやうに鮮やかだつた。夜露に濡れた草が、地上に盛り溢れさうな勢ひで、野を埋めてゐた。『お歸んなさい、歸つて下さい。』『いえ。私はもう歸らないつもりです。』『どこまでひとを困らせようといふんです。あなただつて子供ぢやああるまいし。』草の中に半身を沒して、二人はいひ爭つてゐた。男は激しく何かいひながら、搖すぶるやうに女の肩を幾度も小突いた。『いえ、私はあなたが何と

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